第314回 書評『極楽征夷大将軍』

書評

2023年上半期の直木賞の受賞作です。最近の直木賞はレベルが高く、なかなか見逃せません。今村省吾、米澤穂信、佐藤究のように、受賞者が、その後、更に活躍しています。

著書は垣根涼介。長崎県出身で、1966年生まれです。応仁の乱を描いた『室町無頼』、織田信長の思考法を探った『信長の原理』、明智光秀の必勝の論理を提示した『光秀の定理』など一風変わった時代ものを書いてきています。

今回の『極楽征夷大将軍』は、室町幕府を開いた足利尊氏と足利直義の兄弟を描いています。『室町無頼』で「始祖である足利尊氏は底抜けのお人良しで、気前の良すぎる武家の棟梁でもあった」と記していたように、足利尊氏の「極楽殿」(能天気ぶり)と足利直義のクソ真面目振りを幼児の頃から、お互いの生涯を終えるまでを描いています。

おおよそ武将らしくない足利尊氏の底抜けぶりが際立ちます。日頃はボヤ~としている尊氏は、いざイクサとなると無類の強さを発揮し、御家人、武士達を感服させ、神輿に乗せられます。

弟の足利直義は、事務能力、折衝能力は図抜けていますが、当初は、イクサでは連戦連敗で、自信を喪失します。何と多々良浜で乾坤一擲の勝負で、兄のアドバイスから、小理屈ばかりを考えて命をかけていなかったことを思い知らされ、覚醒します。多々良浜といえば、母校の箱崎中学校があるところです。そこから京へ戻り、楠木正成と新田義貞の軍を破り室町幕府を開きます。

足利尊氏の能天気ぶりに爆笑しますが、本質は「この世は夢のごとくに候。尊氏に道心賜たまい候て、後生助けさせおはしまし候べく候」の言葉に出ています。常に今生のことは弟の直義に任せきっており「今生の果報に代えて、後生助けさせたまえ」と願生しており、とても共感できました。

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