映画監督は司法試験に29才の時に合格した上田大輔さん。有罪率99.8%の刑事司法の現実に絶望し、企業内弁護士を募集していた関西テレビに入社します。私の監査法人時代に、クライアントの社長から見込まれて企業内会計士になった後輩もいました。その時は、折角、公認会計士になったのに勿体ないことだと思いました。私自身は昔から上からの覚えがめでたくなかったので、そのお陰で今でも現役でいられるのでラッキーです。監査法人に残っていても、企業内会計士となっても、私の年令ではとっくに定年退職です。
上田さんは当初、関テレの法務担当部署でしたが、希望により記者となります。記者1年目から「揺さぶられっ子症候群(SBS)」を取材します。乳幼児の上半身を前後に激しく揺さぶることで頭部に損傷が生じる症候群のことです。1990年代から硬膜下血栓、脳浮腫、眼底出血の3兆候が揃えば、揺さぶりが原因である可能性が高いと診断されるようになります。2010年に入ってSBS事件での逮捕・起訴が急増します。
映画では4件の起訴ケースを追いかけます。1件は仮名ですが、3件は実名でご本人が登場されます。驚いたことに取材した4件のケースが全て無罪、あるいは控訴審で逆転無罪となります。そもそも3兆候揃ったらSBSと診断されることそのものが否定される現状にあります。
逮捕の時の映像は凄まじいものでした。もみくちゃにされ、この映像を見た人は誰でも「やったな」と思ってしまうでしょう。子どもと一緒に住めなくなり、子どもは児童相談所に預けられます。児相の方がよっぽでヤバそうです。疑われた親・祖母・義父などの苦しみは相当なものです。何年も収監され無罪となった人もいます。
無罪を勝ち取っていった秋田真志弁護士の立派さが際立ちます。逮捕された義父である今西貴大さんと接見したときに、職業的専門家として、彼は無罪だよと断言したのに感銘しました。今西さんは「私は無罪ではなく、無実です」と断言し、現在は司法試験合格を目指しています。


