第370回 映画&書評『正義の行方』

映画

映画『正義の行方』を観て、その後書籍の『正義の行方』を読みました。福岡県ではよく知られていますが、いわゆる飯塚事件のドキュメンタリーです。2022年4月にNHK BSで放送され、令和4年度文化庁芸術祭・テレビドキュメンタリー部門大賞を受賞したBS1スペシャル「正義の行方 飯塚事件30年後の迷宮」を劇場版として公開したものです。
1992年に福岡県飯塚市で2人の小学1年生の女の子が通学途中に行方不明となり、そこから直線距離で16㎞離れた秋月城付近で遺体となり発見されました。近所に住む久間三千年(当時54才)容疑者が浮かび上がり、2年半後の1994年に逮捕されました。逮捕のきっかけとなったのはDNA型鑑定でした。それを地元新聞の西日本新聞がスクープしています。
しかし、本人は一貫して否認し、当初は取り調べにも応じ、雑談もしていたそうですが、警察が奥さんとの離婚や引越などを勧め、離婚の話ならばと接見を許されます。ただ夫婦はお互いに離婚などは頭から考えておらず、接見後、久間容疑者は貝となり全く応じなくなります。
結局、本人の自供はないままに起訴され、1995年に死刑判決を言い渡されます。2人の弁護士は早速、控訴し、高裁、最高裁でも判決はくつがられずに2006年の死刑判決となります。判決からわずか2年経った2008年に死刑が執行されてしまいます。
久間容疑書本人は、死刑になる直前もキリスト教の教誨師に「自分はやっていない」と何度も言っていたそうです。再審要求をするところだった2人の弁護士は、手続の遅れから自分たちが殺してしまったと自省の念で再審を要求し、それが通ります。驚くべき事にDNA判定自体が、そもそも間違っていたと最高裁の再審判決で認めているにもかかわらず、再審でも死刑となります。
この事件に係わった警察担当官、報道した新聞記者、DNA鑑定の権威の大学教授などが登場しますが、映画を観ただけでは真相は薮の中の印象を残します。しかし、本を読むと、証拠もないままに状況証拠のみで死刑とされ、これは冤罪ではないかとの思いを強く持ちました。
何よりも子煩悩な三千年容疑者が長男を肩車して2人笑っている写真が刺さります。この子はどんな人生を歩んでいるだろうと思ってしまいます。新たな目撃者も現れ、まだ継続中です。

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