第320回 書評『ふりさけ見れば 上・下』

書評

日経新聞で2021年7月~2023年2月まで連載されたものです。日経では途中から読み始めていました。改めて上巻から読んでみて、下巻の半分以下しか読んでいないことが判りました。

歴史・時代小説ベスト1に選ばれた『白村江』(荒山徹)では、白村江の戦いで唐・新羅連合軍に日本が負け、百済が滅亡してしまいます。その後の日本の再興を賭けた遣唐使の阿倍仲麻呂、吉備真備を中心とした50年に亘る物語です。ちょうど同じ時代を描いた、井上靖の『天平の甍』を紹介されて読んだところでした。

当時、遣唐使の船は新羅と敵対しているため、直接、唐に渡るしかなく、4船のうち2~3船しか唐にたどり着きません。約17年ごとの唐からの帰りも東南アジアに流されたりと、まさに命がけです。

阿倍仲麻呂の「天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも」(百人一首)は鑑真上人を日本に5回目の挑戦で送るときに詠んだ歌です。仲麻呂は日本に34年振りに帰るところでしたが、漂流し長安に戻ってきます。

仲麻呂は17才で唐にわたり、日本人ながらも科挙の試験に合格し異例の出世を遂げ、詩人の王維が、阿倍仲麻呂と共に玄宗皇帝の側近として登場します。もう一人の主人公、吉備真備は日本と唐をまたにかけて、仏教を中心とした日本国家を作るために奮戦します。

唐に『古事記』『日本書紀』が正当な歴史書と認めてもらうために、王宮の奥に厳重に保管されている、倭のことが載っている『疑略』の三十八巻を見るための唐側との駆け引きなど、読み応えがあります。仲麻呂は一度文章を見れば、全て覚えてしまうという頭の良さがあり、使命を果たそうになりますが…。

楊貴妃も登場し、唐が滅ぶところまでを描いた壮大な物語です。

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