第393回 書評『対馬の海に沈む』

書評

2024年第22回開高健ノンフィクション賞を受賞しています。著者は北九州市出身で明治大学文学部卒の窪田新之助さん(47才)です。2004年JAグループの日本農業新聞に入社し、2012年からフリーとなり、農業をテーマとした取材が中心です。

2019年2月25日月曜日の朝に、対馬の櫛(くし)の海岸で、ダイハツ「アトレーワゴン」が下りのカーブを曲がりきれずに車止めにぶつかり、そのまま岸壁から11メートル先まで飛び込みます。目撃者によると運転席の男性の顔はハッキリと見え、最初から最後まで微動だにせずに沈んでいきました。亡くなったのはJA対馬の正職員西山義治さん(享年44才)。西山さんはJAの共済事業において全国のトップセールスマンでした。JAではライフアドバイザー(LA)といい、LAの甲子園で総合優績表彰を12回も受けているスーパーLA(SLA)で、LAの神様とまで言われていました。

ところが死後、JA対馬、JA共済連が調べたところ、調査ができた2010年~2018年までで不正による被害総額が22億19百万円になったと2022年6月24日に発表しています。巨額の共済金不正は西山一人に負わされ、監督官庁である長崎県は農業協同組合法に基づいて不祥事件と定めます。JA対馬とJA共済連は妻と子どもに損害賠償請求を起こします。2022年11月から対馬に入り取材しています。

当初は西山の単独不正と思われていましたが、取材が進むにつれて様相が変わってきます。保険金に請求にしても、支店に協力者がいなければほぼ不可能であることが判ります。それも半端な人数ではないようです。JAの共済事業はノルマが厳しいことで有名だそうで、西山のお陰で他の職員がノルマに苦しむこともありませんでした。西山の実績の課程をたどると、それはJA対馬とJA共済連長崎の共同作業だったともいえるとまで記しています。JAの深い闇を感じます。

農業中央金庫(農林中金)の長崎支店からも毎月、担当者が来てチェックしていたハズですが、質問をしても「承知しておりません」との回答です。農林中金といえば、2025年3月期の決算で1兆9,000億円の赤字と発表しており、外国債券の運用で巨額の損失を計上したことが主な原因としています。米の値段高騰は、損失の埋め合わせのための出荷調整によるものとも言われています。

この記事を書いた人
山崎 隆弘

山崎隆弘事務所所長
公認会計士・税理士

1960年福岡県生まれ。福岡市在住。29歳で公認会計士試験に合格。以来、中央青山監査法人(当時)で10年間勤務。会計監査、システム監査、デューデリジェンスに従事し、上場企業などの主査を務めるが、39歳のときに胆管結石による急性胆管炎を発症する。結石の除去に入退院を繰り返し、監査法人を退職。

1年間の休養後、41歳で父親の会計事務所に入所。44歳のときに同事務所を引き継ぎ、公認会計士事務所を開設。同時に妻二三代が入所。「ビジネスと人生を楽しくする会計事務所」がモットー。家族で踊る「会計体操」は、NHK・フジテレビ・KBC・RKB・読売新聞・西日本新聞など多数のメディアで取り上げられる。

著書に『年収と仕事の効率を劇的に上げる 逆算力養成講座』『なぜ、できる社長は損益計算書を信じないのか』。

山崎 隆弘をフォローする
書評
シェアする
山崎 隆弘をフォローする
福岡市東区箱崎の公認会計士・税理士 山崎隆弘事務所
タイトルとURLをコピーしました