
大岡昇平原作、市川崑監督の1959年製作の映画です。同じ原作で塚本晋也監督・主演の『野火』(2014年)は公開当時に観ていました。今回、終戦80年企画で『ジョニーは戦場へ行った』とともに4K版として公開で、市川崑監督版は初めて観ました。
市川崑監督といえば『犬神家の一族』を思い起こしますが、「ビルマの竪琴」(1956)ではベネチア国際映画祭受賞、この『野火』では1961年・第14回ロカルノ国際映画祭でグランプリに輝いています。
10年前の『野火』を観たときに原作を読みました。大岡昇平自身のフィリピンでの戦争体験を基にしています。第二次世界大戦下、フィリピンのレイテ島を舞台に、病魔に侵された中年兵士が飢餓と孤独に苦しんだ末、目の当たりにした陰惨な戦場を描いています。
改めて原作を見てみると、途中で出会った日本兵が西に沈む太陽を見ながら「帰りたい。西方は極楽浄土だ。南無阿弥陀仏。なんまいだぶ。合掌」とほぼ原作通りの台詞があります。
あまり残酷なシーンは観たくないなと思っていましたが、さすがに市川崑監督の『野火』は観ているうちに引き込まれていきました。映画では、肺病を患った田村一等兵(船越英二)が病院にも部隊にも居場所がなくなり、戦場をさまよいます。飢餓で死んでいく兵士たちを横目に、田村は塩や芋、草や水で飢えをしのぐ。永松(ミッキー・カーチス)はさまよう兵士の一人で田村に近づいてきます。「サルを食べる」といいながら、実は同じ日本兵を殺して食べていることが判り、自分はエサであることに気が付きます。まさにこの世の地獄です。
戦地に行った兵士の桁違いの体験が身をもって迫ってきます。